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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1484号 判決 1956年4月28日

事実

控訴人(株式会社平和相互銀行)は、本件建物の所有権移転登記を被控訴人(工藤松蔵)から訴外三島正秀に対してなすことは、被控訴人の代理人工藤隆久ないしは同人によつて選任された復代理人小柳敬之において承諾していたものであつて、その登記原因たる売買契約(所有権移転契約)が金融の便宜を得るため当事者相通じてなした虚偽仮装のものであつたとしても、被控訴人は右事由をもつて善意の第三者たる控訴人に対抗し得ないと述べた。

被控訴人は、本件建物を三島正秀に売り渡したことがないから、所有権移転登記は無効であり、三島正秀が控訴人のためになした根抵当権設定登記もまた無効であると述べた。

理由

被控訴人と三島正秀との間の本件建物の所有権の移転は、三島正秀が本件建物に抵当権を設定して控訴人から金員を借り入れる目的でなされたものであつて、固より真実被控訴人から三島正秀に所有権を移転する意思なく、その登記原因たる契約は当事者相通じてなした虚偽仮装のものと認めるのが相当であるけれども、控訴人を代表して右金員を三島正秀に貸与する衝に当つた控訴人社員滝田克己は右虚偽仮装の事実を全く知らず、真実三島正秀を本件建物所有者と信じて取引をなしたことを認めることができるから、被控訴人は、三島正秀に対し右所有権移転行為の無効を主張するは格別、これをもつて善意の第三者たる控訴人に対抗することができないものというべきである。従つて控訴人に対する関係においては本件根抵当権設定当時の本件建物の所有者は三島正秀であつて被控訴人ではなかつたのであるから、被控訴人は三島正秀が所有者として本件建物につき設定した根抵当権の無効を主張することができないものというべく、控訴人に対しこれが設定登記の抹消登記手続を求めることができないのは固より、所有権の確認を求める請求も、その趣旨は当初から所有権の変動なく、引続き被控訴人の所有であることの確認を求めるものと認められるので、これまた理由なきものというべきである。よつて被控訴人の控訴人に対する本訴請求は失当であるからこれを棄却すべく、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるとして取り消した。

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